【大会解説】FightClub vs eVolve【HammerBlow】


台湾の大会である2015 AELの試合解説です。
言語がわからないので音声解説は何を言っているのかわかりませんが、私なりに見えている情報から解説するとすれば…という観点で書きだしてみました。長いですが最後まで読んでいただければと思います。

HammerBlowの特徴

要所ごとの入り口が狭く、全体的に守り側有利です。
守りが有利ということは、逆に言えば設置されてしまうと大きく不利だということです。

ラウンド構想

試合を通じて、どのようにラウンドを組み上げていくかをラウンド構想と呼びます。
単純に守り方を考えるならば、狭い入り口の近くで引いて守っていれば明らかに有利なので、”たった1ラウンドを取る”という目的であれば、それで良いと思います。

しかし、実際には1ラウンドを取るのではなく、守りでは6ラウンドを戦うわけで、同じ守り方が6回も通用するわけはありません。野球には「同じ球種が来れば、2球目にはヒット、3球目にはホームランを打てるのがプロ。」という言葉があります。上級者同士の戦いになればその言葉と同じように、2度同じ守り方をしようとすれば簡単に突破されてしまいます。

つまり守りでは、いかに敵に場所をバラさずに配置を整え、人数を削り、攻めづらくさせるかが問われていると言えます。
そういった前提があることを頭に入れた上で試合を観戦していただきたいと思います。

解説

1ラウンド

守り側1ラウンド目は、開幕4:0:1の配置です。これを見た人は驚くでしょう。なんで?と。
その後に3:1:1に移行していますが、おそらく1人は開幕グレを投げただけで2に寄ったものと思います。

この配置の目的はまさにラウンド構想の序盤と言えます。
ラウンド構想を考えるにあたっては、相手の思考を読むことが大前提です。
例えば、大きな大会の第1セット、その1ラウンド目、あなたが攻め側ならどうしますか?

まず、開幕からラッシュという選択はしないでしょう。
なぜなら、上位者ほど運で勝つことを嫌い、確実に勝利したいと考えています。
つまり、敵の人数を把握し、薄いほうを突き、ロックして、勝つという方法が基本という考えです。
要は、情報戦をした上で戦って勝つ、頭脳で勝つという図式です。

その前提から言えば、敵の人数や配置、癖さえもわからない状況で、いきなりラッシュして開幕グレで飛ばされたり、敵の配置の情報もいまいち掴めず、2ラウンド目に突入してしまうというリスクは、非常に避けたいところです。また、大会初戦は緊張しているということもあり、安全に、慎重に、落ち着いてという考え方になりがちです。

逆をついて、あえてラッシュをするという選択も無きにしもあらず。
そう考えると攻め側がラッシュという選択をしてくる可能性は約20%と考えます。

攻め側に初動ラッシュの選択はないと読んだその第1ラウンド、守り側はどう動くのがベストでしょうか。
eVolveの選択は1側詰め守りです。

入り口が狭い場所で待てば勝てるという条件は、1vs1の少数戦をイメージしています。
入り口が狭くても、敵が同じところから5人入ってくれば止めることはできません。
ましてやスモークを焚かれて見えなくなっていれば、連続で5人入ってきたのを誰が止めれるでしょうか。

そう考えると、敵の人数を早めに削っておき、ラッシュ成功率をほぼ0%にしてしまうというのも、1つの作戦です。
基本的に攻め側は人数を削れば削るほど攻めやすくなりますが、入り口の狭いマップ構造の場合、逆に人数が減っていることが止められやすさもはらんでいます。守り側としては、初動で削り、人数有利を確定させた上で、引き守りに移行することが最もベストと言えます。その点から考えると、2人ずつ削りあって3:3の状況で引き守りに移行したことは、ベストとは言えませんが想定の範囲内といったところでしょう。

2ラウンド

第1ラウンド目を詰めることによって、2ラウンド目以降にも影響が出てきます。
こういうときも相手目線で考えます。
もし、自分が攻め側だったとして、守り側が1ラウンド目を詰めてきたら、2ラウンド目はどうするだろう?

2ラウンド目は、グレネードを入れて索敵をしつつ、ゆっくりと時間をかけて確実にクリアリングを進めていきませんか?

じゃあ、敵がグレネードを使いながら時間をかけて丁寧にクリアリングしてくると読みましたと。
守り側のあなたはどう配置を取りますか?

当然、前に出ないというのが正解です。
グレネードの危険がある、クリアリングの危険がある、敵が集中力を使ってツーマンセルで詰めてくることがわかっているのに、わざわざ戦ってあげることはありません。グレネードと集中力を無駄遣いしてもらって、時間切れになるのを待てば勝てます。簡単な作業です。

実際にeVolveの選択も、オーソドックスな1中の引き守りを取っています。
開幕の形は2:0:3が基本です。倉庫を取っておくことで守りの幅が大きく広がるので倉庫を取るのは前提として、取りに行くのであれば2人で行って、上を取ったら1人引くという形が無難です。倉庫の上は極悪といっていいほどの強ポジです。そこを取るまでのリスクを減らすために、もう1人ついていくということです。そのあいだのDDはもう1人がカバーしておきます。となれば2側に開幕は3人必要です。

HammerBlowにかぎらず攻めの基本は、”薄いところを攻める”です。
その観点から言えば、敵がオーソドックスな2:1:2で守っていることを予測した場合、倉庫DDを押して2:0:3にしてからロング詰めを行うか、はなから1人とわかっているロングを詰めるかという2つの選択肢が基本に忠実で比較的勝率が高いと言えます。

1中側を煙で切って、1人はいるであろうロングで勝負していくことをFCは選んだわけですが、初動の2人が殺されてしまったので普通の人なら踏みとどまってしまうかもしれません。しかし、攻め側の選択肢が”ロング割り1挟み”である以上、人数を5人ともかけているわけです。

であれば、その瞬間に0.1秒でリスク・リターンを考えます。
・敵はリスに1人、1中のリス側に1人という情報を得た上で人数をそのままかけるか
・2人死んだところで引いて、どこまで裏を取られているのかもわからない何の情報もない2側に寄るか

その2択で選択すべきは1攻めです。2攻めに移行するという選択の勝率は15%ほど。1攻めなら30%はあると考えます。
人数が不利になったとしても、1中さえ取れてしまえば、人数有利を逆転できるのが守り有利マップ、ひいてはHammerBlowの特徴と一番はじめに説明していますが、ロングを使って1挟みをしようという目的を持っていたとして、ロング攻めは失敗しました、2寄りの選択肢もありませんと来たときに、1中を取ろうとしたときに取れる選択肢は、1正面の勝負もしくはロングにさらに人数を割くことの2択です。

可能性の問題でいえば、正面から3人で押すほうが勝率が高いのですが、FCが選択したのはロングの人数押しです。3人目のロング攻めプレイヤーが1キル交換、4人目のロング攻めが2キルを取り、さらに正面の1vs1で攻め側が勝ったために2vs1で1中を取れる形となりました。

これは1正面を守っていた人が一番の敗因で、敵がロングに人数をかけてくるにしても1正面に人数をかけてくるにしても、”1人で絶対に止めなければならない場面”であり、決して敵に位置をバラすわけにはいかない場面です。敵に場所がバレてしまえば、人数をかけられたりFBを入れられて突破されるリスクが高まるからです。

そういう意味で単独で1正面と勝負して、さらに死んだということは、やらかし以外の何ものでもありません。2寄りの可能性を感じての勝負や自信があっての勝負だとしても、リスク・リターンを考えたときにリスク側が高すぎて”あり得ない選択肢”と言えます。

案の定、人数有利が逆転し、1中を制圧され、設置されます。この時点で、守り側は裏詰めなのか表なのか判断がついていないので、設置後の配置に間違いはありません。敵の配置がわかっているのであれば、一番強いのはトラックまたは戦車上です。時間も稼げますし撃ち合いになっても非常に強いです。このラウンドの場合、裏詰めによる早期取り返しの可能性とトラックに乗るまでの時間と音による位置バレのリスクを考えると、戦車に乗るのは難しいかもしれません。

1人が瀕死状態だったため、フルHPの1人がクロスの組めていない状態での無理な撃ち合いを行い、せっかくの人数有利が1vs1を2回行っただけになっています。残り28秒という時間を考えれば、リスから入ってきたのを確認して時間稼ぎで勝ち確です。FCの設置後の立ち回りに甘えが見えます。

…が、1正面で1vs1を制しているその慢心からはよくある行動です。1vs1で勝つことは精神的に大きく、自信を持つことが試合を通してのスコアに大きく影響を及ぼしてくるので、そもそもロング攻めは失敗したのに敵の甘えで1中を取れたという美味しいラウンドであり、3ラウンド目以降の精神的有利を取るという意味合いまで考慮するのであれば、フルHPで1vs1の戦いを行ったことはあながち間違いとも言えません。

3ラウンド

ラウンドこそ取れていないものの、今のところ攻め側がペースを握っていると感じる3ラウンド目。
守り側としては攻め側が何をしてくるのかいまいち予想がつかず、オーソドックスな配置を取らざるを得ない場面です。

攻め側としてはそれを活かし、2:0:3の隙をついていきたいところ。選択したのはDDラッシュです。
このDDラッシュですが、守り側は倉庫上を取るという目的がある以上、DD方面で戦えるのはたった1人だけです。寄りは早いにしても、攻め側としてはいい選択だと言えます。ただ、フォークリフト付近から敵と交戦するというのはあまり良いとはいえません。非常に不利な上、味方のカバーも期待できないリスクを考えると、煙を焚くなりしてDDを1点突破することに集中するほうが勝率としては高まります。

DDを突破したあとは、寄ってきている倉庫とリスとの撃ち合いです。
ここではもう正面での撃ち合う力が要求され、作戦も何もありません。

1側に行くにしても2人、倉庫にも2人と非常につらい場面ではありますが、HBの攻めはもともとつらいのですから、正面での撃ち合いという五分五分の状況に持って行っているということ自体、攻め側が比較的優位です。

4ラウンド

ラウンドは取れていないものの、実力差は感じない4ラウンド目。
3ラウンドとってようやく守りがペースを取り戻してきたような状態です。守りとしては敵の動きの読みを入れていきます。
選択肢としては
・1正面を守っているプレイヤーが弱いと判断しての1正面攻め
・今成功したDD前までをいったん取ってから1攻めか2攻めかを判断
・1度も行っていない倉庫攻め
のほぼ3択です。

どちらにしても、一度2に守り側を振ってから、1に攻めてきそうなそんな雰囲気があります。私ならそう感じます。
守り側が選択したのは事務所出待ちの1寄りシフトです。
DD攻めの成功をみて攻め側のクリアリングが甘くなる事務所出を狙ったいい作戦だと思います。

5ラウンド

続く5,6ラウンド目は1正面攻めですね。
いままでの4ラウンドを見る限り、いちばん弱いのは1正面のプレイヤーと判断できるからです。
いちばん薄いところを狙う、次はいちばん弱いプレイヤーを狙う、当然の作戦です。

7ラウンド

攻守入れ替わって1stラウンド。
守りになったeVolveとしては、積極的な守りを見せてきたFCの攻めは同様に早いと読むべきで、早めの寄りをしていきたいところです。下手に裏を取ろうとしても間に合わず、正規ルートで寄るのが正解となりそうな試合展開です。
敵の攻め方が読めていない以上、無難に引き守りを選択します。

8ラウンド

無難なオーソドックス守りに対しては、2倉庫攻めからの寄り待ち判断または、1ロング攻めが鉄板です。
が、成功しません。

9ラウンド

1正面攻めはグレで飛ばされ、ロング攻めは成功に見えて失敗し、成功しかけたロング攻めを再度選択してもよさそうな場面ですが、ラウンドに比較的余裕があるため、より確実にラウンドが取れる穴はないかと安全展開を狙っているラウンドです。それを読まれて事務所出を落とされ囲まれてしまいます。

10ラウンド

攻めあぐねるeVolveは、1度も行っていない倉庫人数押しを選択します。
倉庫を取ったあとにそのまま2を攻めるか、1に寄るかは倉庫の倒した敵が時間を稼ごうとしていたのか戦おうとしていたのか、寄ってきた敵の数や場所など、その場で判断します。

倉庫を守りが取っておく最大のメリットは2攻めの察知がものすごく早まることです。ミニマップで守り側の動きを見ていればわかりますが、倉庫察知のあとリスとDDが全力で寄っています。逆に言えば、このタイミングでなければ2中まで寄って守り切ることができません。倉庫を出てくる敵に対して守れる場所は、DD出てすぐのところか、2中の設置場です。それ以外は攻め有利で、守りづらい場所が多いです。

つまり、倉庫が取られた段階で2中の設置場に入れていなければそのまま2を落とされて設置されてしまうので、倉庫攻めを察知した場合、近いのであれば倉庫に援護、間に合わないのであれば全力で2中にシフトします。

11ラウンド

ここまで長く記事を読んでいる方、お疲れ様ですw
その代わりにある程度、敵の動きも読めるようになったのではないでしょうか。

攻め側の選択としては、1正面、ロング、DD、倉庫と全体的に一箇所ずつ攻めてきました。
しかし、どれも失敗に終わっていますが、いちばん成功しかかったのはどこでしょうか。ロング攻めですね。
2側の守りが薄いのかもしれないと読んで2ラウンドかけて2側を探ったものの、思ってた以上に守りが厚いことが判明し、それならばここぞとばかりに再度ロング攻めを行うという攻め側の心理が読めてきませんか?

動画を見ていればわかりますが、案の定、ロング攻めです(笑)
それも2側にスモークなど投げ物を入れてからの2フェイク1です。
守り側としては2を2回攻められたことが意識に残っているため、寄りはどうしても遅くなりがちです。

寄りの遅い守り側に対して、ロング攻めが効果的に決まり、1ラウンドを取ります。

12ラウンド

攻め側がここまで来て頼るものといえば、理ではなくいままでの成功体験です。
もう1ラウンド余裕はあるし、成功してきたロング攻めをもう1度やってみようというのが人の心理です。

守りとしてはロングが弱いのがバレているので、早い段階で潰しておこうといった意図の前めでの守り。
攻め側が一番警戒すべきはその慢心です。4ラウンド続けて取られ、ようやく1ラウンド取れたその安心感から、2度同じ攻めを見せてしまうというのは安易です。もし行うにしても、序盤の入り方を変えていかなければ敵に対応されることは目に見えています。前のラウンドで橋制圧→DD制圧の流れを見せているのだから、1を再度攻めるにしても、DD制圧→橋制圧の流れで進めるべきです。これは攻め側eVolveの怠慢と言えます。

13ラウンド

先ほどは先手を取られて1攻めを前めで潰され、結局1攻めができませんでした。
1攻めにしか勝機を見いだせていないので、1攻めにどうしても行きがちなのですが、ただ前のラウンドで1攻めが読まれていて潰されている、つまり心理的に掌握しているのは守り側だということに気づいてしまうと、安易に1を攻めてしまっていいのかどうか葛藤が生まれます。葛藤が生まれると多点突破または誰かの抜き待ちになることが多く、運に任せた試合展開になります。

結果、倉庫を見逃したのか攻め側がたまたま単独で取れてしまい、1はバレているだろうから本当なら2を攻めたい……けれどもキッカケが……と感じていた攻め側としては、倉庫が取れたという契機に乗じる他なく、全力で1側からシフトしている光景がミニマップから見て取れます。

敵が1側シフトを敷いているであろうことが簡単に読めるこの展開とはいえ、6-6の最終ラウンドでそのまま単独で倉庫を出てクリアリングしていくには勇気が要ります。が選択は正しいです。後続がDDから入るためにはまず倉庫からの攻めが必要になります。DDからの全力寄りのタイミングを考えれば、倉庫が出ていくにはこの最速タイミング以外にありません。躊躇すれば守り側の寄りが間に合い、DDが止められ、結果として2攻めは失敗に終わります。

この早期の倉庫出が功を奏し、そのままラウンドを奪取し、eVolveの勝利となりました。

さいごに

敵の考えていることを読んで戦うにはある程度の訓練というか、練習が必要です。
普段から考えていなければ即席でできることではありません。
しかし、敵の心理を読み解いた上で戦うことができれば、ひとつ次元が上のレベルでの戦いに参加できます。

心理戦も交えた戦いができているのは日本ではAランカーだけという現状です。
心理戦のできる強いクランがさらに増えることが日本勢の経験値を豊富にし、海外勢に対抗できる1つの手段となります。もっと高次元での戦いが行われると、解説のしがいもあるなあと思います。

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